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2016年7月 9日 (土)

九二歳のシャルル・アズナブール

 「日本最後のツアー」と銘打たれたシャルル・アズナブールのコンサートが、六月下旬、NHKホールであった。大阪で一日、東京で二日だけのライブ。
 前回、国際フォーラムで聴いたのは二〇〇七年だから、十年近く経っていた。

 アズナブールさんは一九二四年生まれの九二歳。
 この年に生まれた著名人を、好みで少しだけ挙げてみる。
 俳優の鶴田浩二。同じく俳優の京マチ子。作家の吉行淳之介。評論家の吉本隆明。歌手の越路吹雪。
 海外では、ジャズ歌手のサラ・ヴォーン。作曲家で指揮者のヘンリー・マンシーニ。作曲家のモーリス・ジャール。
 いずれの方々も鬼籍に入り、かなり歳月が流れている。
 今もご健在で活躍されているのは、染織作家の志村ふくみさんくらい。

P70905711 同い年生まれがこうした状況の中、シャルル・アズナブールさんは二時間近いライブを、ほぼ立ちっぱなしで歌い続けた。途中、幕の奥に退いたのは、娘のカティアさんがマイクを握って歌った曲のときで、それも途中から舞台に現れデュエットに。

 たしかに、声の伸びは弱まり、音程を辿れない部分は少なくなかった。けれども、それが気にならないほどの歌い語りで、客席を魅了してくれた。
 「ラ・ボエーム」「帰り来ぬ青春」「哀しみのヴェニス」「忘れじのおもかげ」「愛のため死す(炎の恋)」「二つのギター」などの定番だけでなく、初めて聴く曲もいくつかあった(昨年発表したアルバムはすべて新曲の新録音)。

 軽やかに踏むステップの動きは、九年前より小さくなったようだが、魅せてくれた。
 手と指のなめらかな動きは、変わらない。歳を重ねれば強張り、動きが硬くなりそうなものだが、とてもしなやか。
 一九六〇年代、七〇年代、八〇年代……あの時代の生のかたちと手触り、匂い、そしてそれらを地層に重ねる「いま」の情感が歌いあげられ、堪能させてくれる一夜だった。

 四月に武道館でコンサートを行ったエリック・クラプトンは七一歳。相変わらず、背筋を伸ばした堂々たる立ち姿で演奏を披露してくれた。ただ、七一というのは手の届きそうな年齢で、心身の状態も想像しやすいけれど、九二となるととても想定できない。
 アズナブールさんだって、日常生活では周囲にケアされることが少なくないはずだろうに、歌でたくさんの人の心を震わせてくれる。
 先達の姿に力をいただく。

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